英国紅茶サロン メイフェア
コラム
◆第13回…中の人が魅力的に見える理由
先日のメイフェア音楽会のとき、半数以上のお客様が県外から来場した事実に、演奏者が驚いていた。
よほど信じられなかったのか、お客様と言葉を交わすたびに「本当にここだけが目的で来たんですか」「この音楽会を聴くためだけに?」などと尋ねて回っている。
音楽会が終わってすぐにタクシーに乗り込んで新潟駅に向かう方々を見送りながら、ようやく本気にした様子。
こんな出来事を思い出した。かつて、映画翻訳の仕事をかじっていた頃、師匠が東京から新潟にときどき遊びに来て、おしゃべりしながらへぎそばやわっぱ飯を食べ、また新幹線でとんぼ返り。
だから、完全に手ぶら。私との食事の支払いをするための財布がポケットに入っているだけ。
あるとき、「交通費2万円もかけて新潟まで来て、そばを食べて帰るだけじゃもったいないですね」と言ったことがある。すると師匠はこう即答した。
「もったいないんじゃない。豊かなんだよ。そのくらいの心の余裕がなかったら、クリエイティブな仕事はできんだろう」と。
「それに、おれが“せっかくだから観光もさせろ”なんて言ったら格好悪いだろ」とも。
観光が格好悪いとは思わないが、遠方に住む弟子と、あたかも隣近所に住んでいるが如く軽やかに食事をしてしまう爺さまは、なかなかに格好の良いものであった。
メイフェアは、県外からの来店が異様に多い店として知られている。特にイベントのときなど、県外者が半数以上を占めるという不思議。人々は何を思い、何を求めてメイフェアを訪れるのか。
たしかに心の余裕なのかもしれない。近所の喫茶店やカフェで間に合わせればわずか数百円の出費で済むところ、「場」に時間とお金を投資する心の豊かさ。
ともすると、イソップ寓話の「すっぱい葡萄」の心理作用が働いて、「そんなお金をかけてまでのんびりする暇などない」「高い紅茶を飲んでもどうせ味なんかわからない」などと毒づきたくなる人だっているかもしれないのに、自分を素敵に高めてくれる場に身を置き、そこにさらなる「快」を積極的に見出だそうとする意識の高さ。
「ここで過ごすだけでステキな大人の女性になれる気がするから」とは、九州から飛行機で来店する常連の談。外からメイフェアを覗いて、食事をしたりお茶を飲んだりしている人を見ると、それだけで「ステキな人だな」と思えてしまうのも、ごく当たり前のことなのかもしれない。